2011年11月29日火曜日

上海おじさん



目まぐるしく発展をしていく上海。
高層ビルが立ち並ぶ片隅に人々の素朴な生活があった。
新しいエリアをNEW上海と言われるのならばそこをOLD上海と呼べばいいのか。
しかし政府が作った「OLD上海」と彼らが呼ぶ町は観光客向けに再現して建てたもの。
人が住んでるのでもなく、高級なお土産屋さんが並ぶだけだった。

じゃあ本当の昔からの生活がある上海を見に行こう。いろんな人に聞きながら、自転車でたどり着いたのは狭い路地が迷路のように広がり、あちこちに張られたロープにかかる洗濯物をくぐり抜け、アジアの香りプンプンの世界に入り込んだ。路上の市場にはおばさんたちが野菜や魚・にわとり・はと・アヒルを道いっぱいにひろげ、お昼ごはんを食べている。
路上に即席の机を広げ、トランプに真剣なおじさんたち。
「アイヤー!」トランプで負ける度に悔しそうな声と嬉しい声が聞こえてくる。
台風が来たら吹き飛んでしまいそうなおうちだけど、なんだかみんな楽しそうで、歩いてるとウキウキしてくる。







自転車でのんびりと走りながら写真を撮っていると、後ろから「ここの写真を撮りなさい。」
白ひげのおじさんがeバイクに乗りながらそう言ってきた。
撮ったら「次はこっち。」「そしらこっちも、この角度から撮るといいのだよ。」

おもしろいおじさんだ。中国語しか話さないけど、僕が日本人っていったら体いっぱいにジェスチャーを加えてくれる。
たどり着いた先はおじさんの家。家といっても屋根がぬけてて、きっとおじさんが集めてきただろうガラクタが山積みになっている。そして可愛い犬が二匹、よくおじさんになついている。

犬と遊んでいると、おじさんが家の奥から大きな皮のスーツケースを持ってきた。
中をあけてみるとアコーディオンだった。僕は意外なものが出てきてびっくりしていたが、すぐにその音色に聞き入ってしまった。おじさんの中国の音楽とクリスマスのコラボレーション。
沖縄三線も仲間に加わり、犬と僕とおじさんだけの音楽会がはじまった。
次第に近所の人たちも集まり愉快ににぎやかになっていった。

自転車で世界一周中だと言うと、おじさんは目をキラキラさせながら笑顔になった。
まだ時間があるならお寺に行こうと言われ、一緒にお寺の中で写真を撮る。すると写真をお願いした人が上海の雑誌の記者で、おじさんが僕について何かを話すと、雑誌に載せたいからといって、取材と撮影が始まった。なんだか恥ずかしくて笑顔が引きつった。

「おじさん、お腹空いたね。」
そういえばお昼御飯を食べていないまま夕方になってしまった。
「やっすいところ知ってる?」と聞くと、本当に安い、工事が中断したあとのような荒地に立つ夜の屋台街に行った。ひとがいっぱい。みんでビールを何度も乾杯しながらおじさんたちが飲んでいる。音割れしながらラジオが流れている。歌い始めたおじさん、仕事が終わってヘルメットをかぶったまま食べに来るおじさん。僕らも混じっていっぱい食べて、いっぱい飲んだ。
それでもビールは大ビンで30円程。
「うちの犬もお腹減ってると思う。」残った食べ物は袋に入れて、家で待つ犬のために持って帰る。いいないいな。なんかいいなこういうの。日本にしばらく居すぎて忘れかけていた感覚。でも東南アジアとは何か違う。中国人には中国人の雰囲気と気楽さ、適当さがある。結構好きだなあ。


最後におじさんの師匠と呼ぶ人の家に連れて行ってもらった。実はおじさん、音楽や絵画ですごい人のようだ。日本の教科書に載るような人ではないけれど、歴史上の人物を祖先に持つひとのよう。でも今は中国政府のやり方に不満を抱き、自ら表舞台から退き、自由な生活を選んだようだ。
最後はハグして再見。本当に優しく、またぜひ会いたい人だった。


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