2012年1月12日木曜日

-ひとりの命-

この日、ひとりの命が亡くなった。
数分前まで明るく元気に話していたと思ったのに、
今はもう亡き人。彼女を置いて、突然去っていった。
・・・・・。


Yiyangからこの先も、南昌までは田園風景が続く田舎道。
次の街Dongxiangまで行きたかったが今日はすでに90km近く走っており、時計を見ながら今夜泊る場所のことを考えていた。左右をキョロキョロみながら景色が綺麗なキャンプ場所を探す。すると国道から500m程右にそれた場所に大きなダム湖のようなものが見える。地図には載っていないがだいぶ大きそうだ。家畜農家の前の細長い道を、ニワトリを避けながら通ってたどり着いた場所は、霧の中に大きな亀の甲羅のような山がいくつも浮かぶ湖、予想以上に綺麗な景色が広がっていた。今日はここで寝るとしよう。
日暮れまであと30分。幻想的な風景を見ながら、好きな音楽を流し、テントも無事設置完了。近くに商店すらなかったが、持ち合わせの食べ物ととっておきのワインを飲みながら映画を見て眠くなるまで過ごす。
今日もよく走った自分にご苦労様。

テントの天井に釣り下がり揺れるランタンを見つめる。
去年の夏、バイクにテントを積んで、伊豆半島をキャンプして周ったことや、9月の和歌山でのテント生活を思い出していた。上高地も、石巻も、白馬も、甲斐も、どこにいっても日本は星が綺麗だった。夜テント入り口のジッパーを開けて、ふと空を見上げたときに広がる星空が大好きだった。でもここ中国では残念なことに星がほとんど見えない。大気汚染が原因で昼間ですらかすんで見える。都会からはずれたこの田舎でも空気は綺麗ではない。二ヵ月後、中国北西の山奥に行ったら期待できるかな。





































翌朝、お腹が空いたと騒ぎ出す僕のお腹を、持っていたオレンジとヨーグルトでごまかしながら着いた街、Dongxiang。露店ではおばちゃんたちがお客さんと大声で笑いながら話している。
よろよろよろ。
ゆっくり走りながら何を食べようか考える。ひときわ元気な小龍包屋のおばちゃんと目が合った。スタンドのない自転車をちょっとした段差によりかけ、優しい手招きと蒸し器から立ち込める湯気に吸い寄せられるようにお店の前に立つ。3個で1元(12円)の小龍包がとっても美味しい。日本から自転車で来たと話すとたちまちに子供から大人が寄ってきて「アイヤー!」と驚いていた。「加油!」(頑張ってね!)とみんなに見送られ、よし今日も一日頑張るぞ!と気合を入れる。嬉しいと、ペダルも少し軽く感じてくる。
中国の仲良し ジャイアン・スネオ・のび太くん
中国の正月(今年は22日から一週間)を前に、すでに学校や会社は休みに入り、帰省し始める人たちが中国中を大移動し始めている。都心から地方への電車の切符は二週間先まで買えないものや、高速道路は渋滞。一般道も荷物を大量に積んで走るバイクが横を通り過ぎていく。
何組かのカップルが自転車に横付けして走り、どこへ行くのかなど興味深そうに質問してくる。日本人だとわかると、ゆっくりわかるように話してくれ、退屈な走行中も彼らのおかげで楽しい時間にかわる。

お昼前だっただろうか、少し休憩してマンゴーを食べていると、寄りかけ方が悪く、自転車が動き出し、道路わきの1mほどの段差に前輪からすべり落ちていった。後輪側は気づいてすぐに掴んで支えたが、重くて重くて半分落ちかけた自転車を引き上げるのにとても時間がかかった。

その時、直線に伸びる道路の800m程先に人だかりがあるのは気づいていた。きっと何でもない、またトランプや将棋の賭け事に人が群がっているのだろうと思っていたが、何となく嫌な予感もしていた。自転車を何とかして引き上げ、散らばった荷物の中身を拾い上げていたその時、人だかりの前に救急車が停まった。嫌な予感は的中した・・。
二人乗りバイクがすぐ道路から反れた木に正面からぶつかり、一段低くなった土手に転がっていた。動かなくなった男性の隣には泣き叫ぶ女性と、ついさっき到着した医師と看護師が点滴ルートを取っていた。翼状針が血管に入らず焦る看護師。僕も自転車を停め、そばに駆け寄るが、男性はすでに呼吸も脈も止まっていた・・。
すぐに救急車に運び入れ、病院に搬送されたけれど・・・。
















割れたヘルメットと血痕、壊れたバイクが残る。
バイクの荷台には、きっと田舎に持ち帰るのであろう大きな荷物が積んである。
これから寒くなる冬の為に購入したのか、新品の毛布も・・。
家族全員が全国から集まり、盛大にお祝いする中国正月。幸せな時間になるはずなのに。
残された家族は、彼女は・・。彼らの思いを考えただけで心が痛い。

本当は、結婚式に呼ばれていたので寄る予定の街だったのだが、実はそこの家の両親が最近になってやっぱり外国人は「ごめんなさい。」と断られた。「日本人」だから、じゃないといいのだけれど・・。共産主義にとても関連の深い街、南昌に近づいているということが今になって実感してきた・・。中国人ですらあまり行きたがらないという南昌、どんなところなんだろう。少し覚悟を決めた。

そんな心配をよそに、一緒に御飯を食べたその家族の15歳の女の子が自転車での旅にとても憧れを抱いていて、なんと「妹にさせてください。」と言ってきた。僕には実の妹が東京にいるが、「二人目で良かったらお願いします。」と真剣な眼差しだった。
「よし!いいよ!今日から中国の妹だ!」
いまいちこの変な関係がよく解らないが、頑張る人、夢を抱く若者はぜひ応援したい。
今まで中国だけでも何人もの若者がこの旅に夢を抱き、いつか僕のようになりたいと言ってくれた。
いつか彼らも自転車で日本を走りに来るときが来るのだろうか。
そうだとしたら今からもう再開が楽しみになってきた。


Yujian to 南昌(Nanchang

走行距離:119.34km
平均速度:15.7km/h
最高速度:36.7km/h


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